春雪でボードを走らせるなら、ヘタなワックスを塗るよりもクリーナーでソールを掃除する方が効果的です。
これは、長年ガリウムワックスのサービスマンを務めた坂本壮さんの言葉。
特に黄砂の時期にボードを走らせるのは大会レベルでも非常に難しく、高度な知識・技術が必要です。
ワックスメーカーのサービスマンでさえ難しい春雪対策のワックス。僕たち素人ががんばってみても、もしかしたら間違った対策をしているかも知れません。
この記事では、
- 春雪でボードがストップする理由
- 即効性のある春雪対策
- チューンナップをするなら?
といったトピックスを解説していきます。
この記事は、スノーボードメンテナンスのプロ中のプロ坂本壮さん(So Tuneup System)を取材・構成しています。
また、シーズンを通して必要な初心者向けワックスノウハウは別記事で解説しています。
春雪でボードが滑らない理由は「汚れ」
坂本さんは、「特に黄砂の時期は、ヘタなワックスを塗るよりもクリーナーで汚れを落とす方がよく滑ります」と言い切ります。
ガリウムワックスのサービスマンを20年以上務めたプロの意見として、春雪には汚れ対策が一番効果的ということです。
その言葉を裏付けるために、ワックスメーカーがどう考えているかも見てみましょう。
メーカー名 | ストップ雪の原因 |
---|---|
ガリウムワックス | ①汚れ、②ザラメ雪 |
ドミネーターワックス | 汚れ |
マツモトワックス | 汚れ |
ハヤシワックス | ①古雪、②花粉雪、③黄砂雪 |
上の表は、いずれもワックスメーカーの公式サイトに記述された「春雪で板が走らない」理由です。
どのワックスメーカーも、結局は「黄砂を含む汚れこそが、春雪で板が走らない原因だ」と結論づけています。
もちろん湿雪や高温も、板の走りを悪くする原因のひとつですが、最も大きな要因ではありません。
ストップ雪と呼ばれる、ブレーキがかかるような強烈な悪雪は汚れが原因となっているのです。
クリーナーは滑走面に悪い?
クリーナーは滑走面に悪影響を与えるという説があります。以前ワックスメーカーのブリコさんを取材した時は「確かにある程度悪影響があるので選手の板には使いませんが、自分の板にはクリーナーを使いますよ」ということでした。そこまで気にするほどの悪影響ではないようです。
即効性のある対策と根本的な対策
春シーズンはとにかくホットワックスをしないと……という意見もあります。でも、それに固執するあまり、スノーボードを走らせるという観点から外れて「ワックス道」のようになってはいないでしょうか?
ホットワックスは春に入れればよいわけでなく、ある程度の頻度でワクシングをしてソールを作っておかないと効果を発揮しません。
すぐにできる対策としては、汚れを落とすことや簡易ワックスの使用が効果的です。
クリーナーは手軽な即効性ツール
昔(ものすごく昔の話ですが)、雪国の人たちは春雪対策として「灯油でスキーのソールを洗う」という方法を編み出しました。
経験から、汚れを落とせば板は走る、とわかっていたのです。
現代でも、春雪にすぐ効く対策はクリーナー(リムーバー)による汚れの除去。これだけでもある程度ボードは走りますし、よくわからないままホットワックスを掛けてしまうより効果的です。
「何か1つだけ春雪対策を」という時はクリーナーを備えておき、余力があれば簡易ワックスも利用すればベターです。
柔らかい簡易ワックスを使う事で板が滑る
簡易ワックスは、パラフィンやフッ素といった主成分だけでなく、クリーナーと同じ成分を含んでいます。リンスインシャンプーのようなもので、ワックスと同時に汚れも落とすことができます。
ワックスを選ぶセオリーは「雪の硬さにあったものをチョイスする」こと。これは簡易ワックスでも同じです。
簡易ワックスにはペーストタイプ、固形タイプ、液体(リキッド)タイプなどの種類があります。
それぞれ硬さが違うため、雪質にあわせて使用すると効果が高くなります。
柔らかい | ペーストタイプ |
中間 | 固形タイプ |
硬い | 液体タイプ |
一般に低温時には雪が硬いので、硬いワックスを選びます。
高温時には雪が柔らかいので、柔らかいワックスを選びます。
これは雪とボードのソール表面(に塗られたワックス)の摩擦を最小にすることが目的です。たとえば硬い雪に柔らかいワックスを使うと雪の結晶がワックスに刺さることになり、摩擦が増えてしまいます。
春雪は柔らかいので、柔らかいワックスを選んでください。簡易ワックスを使うなら半練り(ペースト)タイプが有利。コルクで伸ばすと硬くなるので、むしろコルクを使わない方が雪に合う場合があります。
実はプロも使うペーストタイプ
坂本さんは春シーズンのスノーボード試乗会でサービスマンを務めた経験も豊富です。そんな時、ペーストタイプの簡易ワックスでメンテすることもあったそうです。意外とボードがよく走り「何を塗ったんですか!」と驚かれるといいます。
理想をいえば早めにチューンナップしておく
シンタードベースを採用したスノーボードであれば、シーズン前にプレチューンを行い、ホットワックスの下地を作っておくのがよいといわれています。実際、ハイエンドのスノーボードであれば、そういった対策が有効です。
初心者向けのスノーボードはエクストルーデッドソールという、ワックスがあまり浸透しない素材を使っています。その場合は、ホットワックスにこだわる必要はありませんが、それでもシーズン前のチューニングには効果があります。
シンタード | チューンナップとホットワックス |
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エクストルーデッド | チューンナップだけでもしておこう |
このように切り分けて考え、自分のボードにあったメンテナンスをしておきましょう。
エクストルーデッドベースのスノーボードだからダメ、ということはありません。僕はメンテナンスが簡単なエクストルーデッドソールのボードも愛用しています。
実はワックスの力はそんなに大きくなくて、ソールによってその雪で滑るかどうかは決まっています。ソール、チューンナップ、ストラクチャーなどの要因が滑走性をほぼ決めており、ワックスは最後にそれらを助けるアイテムにすぎません。
春スノーボードの後に考えるメンテナンス
僕は、初めて買った初心者向けのスノーボードでも、大切に乗れば3年くらいは使えると考えています。
この記事を読んでいるということは、春までがっつり滑ると思いますが、そうやって1シーズンを共にしたスノーボードはかなり痛んでいるはずです。
来シーズンも使う予定であれば、夏の間にチューンナップに出しておくことをおすすめします。ものすごく高価なチューニングは不要ですが、ソールをフラットに削る作業(サンディング)や、エッジの手入れをしてもらいましょう。来シーズンも気持ちよく滑ることができます。
近くに信頼できるチューンナップショップがあればそこで、ない場合は上記のリンクから坂本壮さんにチューンナップを依頼できます。
取材協力
SO TUNE UP SYSTEM
電話: 06-6331-1100
参考文献
スノーボーダー編集部(2006)「プロから学ぶチューンナップ」,『SnowBoarder 06 Vol.2』
スノーボーダー編集部(2000)「ベンさんのワックスQ&A」,『SnowBoarder 00 Vo.4』